「サムスン電子、グーグルの検索エンジン搭載代価の年間4兆ウォン」はなぜ過大評価なのか?

By | 2017年8月16日

標題の件、Yahoo!Japanのニュースで見つけた以下の記事に関する命題なのですが、思考実験の例としてなかなかに興味深いので題材としてみました。

サムスン電子、グーグルの検索エンジン搭載の代価として年間最大4兆ウォンの収益(1)

サムスン電子、グーグルの検索エンジン搭載の代価として年間最大4兆ウォンの収益(2)

簡単に言えば、グーグルがアップルに対し、iOSがグーグルの検索エンジンをデフォルト取り扱いにしていることの報酬代価として足元30億ドル程度の支払いを行なっているとの専門家推測を元に、サムスンの場合はアップルよりも世界スマートフォンシェアが大きいので、かなり単純な比例計算を元にサムスンの場合は4兆ウォンくらいもらえることになるのではとの予測記事となっています。

記事を信用すれば、実際にサムスンとグーグルはこの様なアップルiOS類似の契約について内容交渉をしている様ですので、実際に契約成立する可能性は高いのだろうと思います。

でも、この記事を読んですぐに思ったのは、アップルとグーグルの間の契約条件をそのまま比例計算の元ネタにして、サムスンとグーグルが結ぶであろう契約条件だと思って比例計算した4兆ウォンは、おそらくはかなりの過大評価な額になるのではということでした。

なぜ私がそう思うか、ピンと来ますでしょうか?すぐにピンとくる方は以下のヒントで軽く答え合わせをしてください。

ヒントは、「両プラットフォームの顧客の購買力の差」になります。

答え合わせで合っていなかった方やヒントを見てもピンとこない方、あるいは私の詳細な理屈、推論を読み進めて見たい方は以下に進んでいただければと思います。

 

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まず、単純な理屈として、「グーグルが検索エンジンデフォルト取り扱いの代価として支払える金額はそのプラットフォームでグーグル検索関連での広告主があげる実際の売り上げ総額に比例する」だろうことが推測されます。

わかりやすい例として、ある広告主がグーグル広告に広告料を払って商品販売促進しようとする例を考えます。単純な例として1箇所に広告出稿して、その広告で10000クリックが見込まれ、結果、単価1万円の商品が10個売れるものとします。この広告主は商品売り上げ見込み額の10%を広告料として支払っても、満足いく利益がこの商売から上がるものとします。すると、この広告出稿でこの広告主が支払える広告料は売り上げ総額10万円の10%、すなわち1万円となります。この広告料は1クリック換算すると、1万円割る10000クリックで、1クリックあたり1円の広告料がグーグルに支払えることになります。

ここで、ある巨大な新興国でスマホが急速に普及し、スマホの普及台数が瞬時に倍になってクリック数も倍になったとします。そうすると上記の広告主も出稿広告のクリック数も倍になって20000クリックが見込まれます。でも、新たに10000クリックする顧客は新興国の顧客ですので、1万円を出してこの広告主の商品を実際に買う人はあまり現れません。前は10000クリックで10個商品が売れましたが、新たに追加の10000クリックを得たものの、追加で売れた商品はたった1個でした。

そうすると、スマホの普及台数が2倍に増えた後は、クリック数は20000クリック、売り上げは1万円の商品が11個売れて11万円、この広告主が広告料として支払える額は売り上げ総額の10%の1.1万円になり、1クリックあたりの広告料は1.1万円割る20000クリックで0.55円に下がります。

上記の例では、最初の10000クリックが既存のスマホ市場から、追加の10000クリックが新たに生まれた新興国の市場から生まれるものとして考えましたが、これが最初の10000クリックがiOSプラットフォームから、追加の10000クリックがサムスン端末のプラットフォームからと思えば、これがなかなかにぴったりな例になるのです。

というのは、iPhoneの1台あたりの平均購入単価は600ドル超で、サムスンのAndroid端末の平均購入単価は250ドル未満である等の傾向を示す統計は何度も目にしており、またアップルのApp Storeの金額売り上げはグーグルのPlay Storeの売り上げ金額の2倍という統計も良く目にします。統計上、サムスンの端末の平均単価はその他のAndroidメーカーの平均単価とそれほど差がない様ですので、ここでは、サムスン端末顧客の購買力=その他のAndroid端末顧客の購買力という単純な仮定を置いて計算します。すると、ざっくりグーグルのPlay Storeの対象顧客数はiOSの対象顧客の4倍くらいはいそうですので、4倍の顧客で半分の売り上げすなわち、アプリ市場の売り上げ額統計からは、サムスンの顧客の購買力はアップルの顧客の8分の1ということになります。

実際には、ここまで極端ではないかもしれませんが、端末の平均単価の差から考えればサムソン端末購入者の端末の購買力はアップルの端末購入者の端末購買力の、250割る600で42%、分数で表せば、12分の5になります。

これらの情報から考えれば、サムスン端末プラットフォームから上がる商品売り上げはアップル端末プラットフォームから上がる商品売り上げのざっくり8分の1〜12分の5あたりだと見込んでおけば、大きな間違いはないだろうという、ざっくりとした推論が成り立ちます。

もしそうであれば、グーグルが広告主から手に入れる広告料はサムスンスマホ1台あたり、アップル端末のざっくり8分の1〜12分の5あたりになるでしょう。結局はグーグルにとってサムスンスマホの1台あたりの広告料売り上げに占める貢献がアップルスマホのそれよりも有意に低いのですから、シェアできる検索デフォルト取り扱いの代価も下がり、アップルと同条件の顧客基盤であれば4兆ウォンをグーグルは払えたのに、実際のサムスンの顧客基盤はそれほど魅力的ではないので、上記の比率で考えればざっくり0.5ウォン〜1.67ウォンくらいの範囲に落ちそうだと推論できます。

この推論は、実際に広告料の支払いの仕組みがアップル端末とサムスン端末の間で区分されているか否かを問わない論理になります。すなわち、実際にグーグルがアップル端末からは1クリック1円、サムスン端末から1クリック0.1円を広告主からもらうことにしても、均して全てのクリックに対して0.55円をもらう制度にしても、グーグルが広告主からもらう広告料収入は全く同じになります。

グーグルも商売ですから、広告主にとってあまり広告に対する売り上げ効率の良くないプラットフォームに対して、アップルの顧客の様なプレミアな顧客プラットフォームに払う対価と同じ条件で払っていたら、簡単に採算割れ、赤字になってしまいます。

というわけで、記事を見た瞬間に、この4兆ウォンはかなりの過大評価な額なのではないかと思ったのです。

ここまで考えて、プラットフォームの質、プラットフォーム全体の購買力はグーグルが行っているインターネット広告の分野にも働く力学なのだなと改めて再認識しました。

そういえば、グーグルのモバイル広告収入に占めるiOSの比率は途轍もなく高いという統計記事もありましたね。今、検索してもこんな記事が見つかりました。

Googleのモバイル広告収入、なんと75%がiPhone経由!Androidはどこへ

上の概算推論で用いた理屈を用いて計算すれば、Androidのモバイル広告収入はiPhoneのざっくり4倍の顧客基盤で3分の1の広告収入、すなわちAndroidの1台あたり広告料収入効率はアップル端末の12分の1になります。上記の推論で推定した8分の1〜12分の5の推定幅の下限を突き抜ける極端な結果です。

グーグル広告の分野でもプラットフォームごとの購買力の差がグーグルの広告料収入の差として如実に現れていて、当エントリーの推論の大まかな正しさを示してくれている、非常に興味深い統計結果だと思います。

 

 

 

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